大森ちゃんぽんと申します。

アラサーの独り言ブログ。

振られた先輩に彼女が出来た話。

とある週末。

仕事帰りに部署のお偉いさん(垣之内さん、仮名、男性、50代)と先輩(荒木さん、仮名、女性)と3人でメキシコ料理を食べに行ったときのこと。

あ、どうでもいいんだけどこの会は「垣之内会」と称され、垣之内さんの垣之内さんによる垣之内さんのための不定期開催イベントである。私はチーム違うんだけど入社当初から何故か気に入ってもらっており、レギュラーメンバーとなっている。お金も人脈も包容力もある大人の男性と仲良くするのっていいよねー。社外にもご飯ご馳走してくれる素敵なおじ様いないかしら。

話戻します。で、その会で噂好きの垣之内さんから衝撃事実を聞かされることになる。表題の件である。私を振った先輩が同じ部署の後輩の女の子と付き合っているというのである。寝耳に水とはこのこと。全く気が付かなかった…。もちろん先輩との一件は社内の誰にも話していない。何食わぬ顔でへーそうなんですかと相槌したが、口に運んだトルティーヤが喉を通らなかった。そんな訳なくない?だって私、結構真っ当な理由で振られてるんだよ?…話は2年前の12月に遡る。

 

その頃の私といえば、長らく付き合った彼氏と別れたばかりで恋愛へのやる気に満ち溢れていた。恋愛一直線モード。つまりは危険人物。元彼は天真爛漫な少年のような人だったので、次付き合うなら相談に乗ってくれる落ち着いた男性がいいなと思っていた。そんな折り異動してきたのが先輩(石坂さん、仮名)である。年の近い私達はすぐに打ち解け、2人で飲みに行く仲になった。仕事帰りに映画に行ったりもした。石坂さんとはとにかく話が合い、私のつまらない話をたくさん聞いてくれた。当然私は異性として意識するようになったし、先輩もその気だと確信していた。思い返せば大バカ者である。勘違いも甚だしい。

 

そして迎えたクリスマスシーズン。石坂さんから若手クリスマスパーティーのお誘いがあり、幹事を任された。大勢でワイワイしたいねと言っていたが、みな恋人がおり先約があった。その旨を先輩に報告すると、じゃあ2人でご飯行こっかと言われた。

はい来ましたー。この時期にご飯て、もう好きですって言ってるようなもんじゃん。こっちが恥ずかしいわー、と気持ちの悪い解釈をしつつその日を待った。何度も言うが、大バカ者である。歴史的バカ。偉大なるバカ。

 

当日。軽くご飯を食べた後、なんとも雰囲気の良いバーに連れていかれた。露骨だなあまったく。店内はカップルだらけ。席も向かい合わせではなく、隣に座る形式だった。自然と距離が近くなりボディータッチも増えた。いやらしいんだからあもう。石坂さんは珍しく序盤から酒を煽り、1時間後にはべろっべろに酔っていた。あれ?こんなに酔って大丈夫?ここからが本番なんじゃないの?

今思えばこの時気付くべきだった。お前の勘違いだと。ドラえもんに頼み込んでこの時の自分に会えるのならば、首を絞めて半殺しにしてやりたい。その間に適当な理由つけて先輩を帰してやりたい。が、現実はそうはいかないよねー。完全に告白待っちゃってたよねー。そろそろしつこくなってきたが言わせてほしい。大バカ者である。世界的バカ。トップ・オブ・ザ・バカ。

 

すっかり出来上がった石坂さんを眺めること3時間経過。ねえ時間ないよー、こっちはもう準備万端だよー、早く言えー。言わない?え、まだ言わない?

ついに店員さんに閉店時間を告げられた。しびれを切らした私は猟奇的行動に出る。そう、自ら切り出したのである。

私「先輩、私のことどう思ってるんですか。」

石坂さん「え?どうって?面白い後輩だと思ってるよ。気も合うしね。」

私「いえ、そういうことじゃなくて。どうして今日誘ってくれたんですか。私てっきり先輩が私に気があるんだと思ってました。あははは〜。」

努めて明るく言ったつもりだった。が、先輩の顔がみるみるうちに険しくなった。

石坂さん「何言ってんの?酔った勢いでそんな冗談言うの本当に良くねえよ。てか部内の後輩に手出すわけねーじゃん。せっかく面白い奴だと思ってたのに。がっかりだわ。」

…なにこれ。なんか思ってた流れと全然違う方向に進んでるんですけど。まず酔ってないし。酔ってるのそっちだし。こっちは至って真面目に言ってるし!

私「…そうですか。私の勘違いでしたか。それならもうご飯とか行くのやめましょう。辛いだけなので。もう帰りましょうか。ちょっとトイレ行って来ますね。」

トイレで頭をフル回転させた。どうしよどうしよどうしよ。酔ってませんて言ってちゃんと告白する?逆に酔ってたことにしてごまかす?うわー大惨事じゃん。自分が愚かしくて足が震えた。

結局考えがまとまらないままトイレから戻ると、さっきまで怒っていた先輩が今度は明らかにしょんぼりしていた。私に悪いと思ったのだろう。

石坂さん「この歳になって女の子の気持ちが分からないなんて格好悪いよな俺。反省してます。もう誘わない方がいいかな?」

私「はい。二度と誘わないで下さい。」

そんなこと1ミリも思ってないのに口から言葉が出ていた。どうにかして傷付けてやりたかった。強がりたかった。とんだ性悪女である。

 

その後はさらに悲惨だった。自宅の方向一緒だし終電だしで、2人で電車で帰った。もちろん無言で。実際10分くらいだったけど、永遠に思えた。先に先輩の自宅の最寄り駅に着いた。それまで黙っていた先輩が別れ際、「今日は本当に申し訳ありませんでした」と言って去っていった。傷口が更に広がった。自分のプライドをズタズタにされたことへの怒りとか恥ずかしさもあった。だけど、なにより大好きな先輩を悲しませてしまったことへの後悔が押し寄せた。たくさん良くしてもらったのに。ただ幸せになりたかっただけなのに。最悪だ。これ以上無い程の最悪。

 

なんか恋愛ブログみたいになってきたなー。目指すコンセプトと違うので軌道修正するわ。まあ落ち込んだのも7時間くらいよ。振られた翌朝には、なんでこの人がいいと思ったんだろー?あの人頭オカシイわ。危うく騙されるところだった、やだやだーぁ、しっかりしてよねア・タ・シ☆くらいにフル回復していた。よくぞここまで自分を正当化できるな。我ながらあっぱれ。頭がオカシイのはお前である。少しは反省しろ。

 

唯一の救いといえば、先輩と業務上関わることが無いということ。チーム違うからね。不幸中の幸い。それから1年半、私達は見事に一言も話していない。別に意識して遠ざけている訳ではないので、これが然るべき距離感ということなのだろう。

 

話は冒頭に戻る。お待たせー。だから垣之内さんから話を聞かされた時、えも言われぬ違和感を覚えた。…あれ、後輩に手出さないって言ってませんでしたっけアナタ。話が違うじゃありませんかアナタ。アータアータ。突如脳内に出現したデビィ夫人が、石坂さんをしきりに責め立てた。

 

せっかくなので後輩ちゃん(後藤ちゃん、仮名、23歳)にも触れておく。

後藤ちゃんは入社2年目、スレンダー美女。桐谷美玲に似ている。石坂さんと同じチームで、一般職で事務。ちなみに私は総合職で営業。なんか語感が強いな。彼女と私の仲はというと、特に親しくはない。すれ違えば、久しぶりー元気だったー?と軽く挨拶する程度。だが、垣之内さん経由で彼女の噂は前々から聞いていた。

後藤ちゃんは身体が弱く休みがちだということ、メールの返信が物凄く遅いということ、仕事を頼むと嫌な顔をするので扱いづらいということ、複数の男性社員と遊んでいるということ、つい先日も部内屈指のプレイボーイと肉体関係を持ったということ…etc。てか垣之内さんの情報量すげぇな。特に最後とか知り得なくない?尾行でもしたの?大迫もハンパねえが、垣之内も負けじとハンパねえ。

 

これら全てが真実かはいささか疑問だし、元々他人にあまり興味がない私である。今までは単純に、別のチームで良かったーめんどくさそうだもん、としか思っていなかった。しかし、石坂さんと付き合っているとなれば話は別である。

 

納得いかないんですけどー。

 

私入社してから1度も体調不良で休んでないし、39度の熱がある日も営業出たけど。だってアポ取ったのに行かないなんて失礼じゃん。メール来たら速攻返信するけど。それって社会人としての常識じゃん。仕事頼まれたら時間外でも対応するけど。そうやって助け合ってくのがチームじゃん。複数どころか1人の男性社員とも遊んでないけど。強いて言うなら垣之内さんくらい?…あ、ごめん、違うか。

 

つまりは、私の方が頑張っていると声を大にして主張したいのである。でもねー私知ってる。頑張ってるとかいないとか、全く関係無いということを。恋愛においては美しい者が圧倒的に有利である。美人が頑張ればプラスだが、ブスが頑張っても無である。ゼロ×ゼロ=ゼロ。てかさー、頑張れば頑張るほど人に嫌われてかない?歯を食いしばって死に物狂いで踏ん張ってる女子なんて、誰も見たくないんだよね。なんか恐いし。いつでもニコニコ笑ってて余裕のある方が良いよね。俗に言う癒し系ってやつ?美人かつ癒し系であれば、もともと高かったポイントが更に100倍に膨れ上がるときたもんだ。分かるよ…分かるけど…クソがぁぁぁ。

 

というわけで、美人でもなければ癒し系でもない私は「部内の後輩だから」という定型的な理由で振られた。一方、美人かつ癒し系の後藤ちゃんは「部内の後輩だけど」というイレギュラー当選を果たしたのである。

 

垣之内さんは追い討ちをかけるように、2人の馴れ初めについても意気揚々と語ってくれた。全力で後藤ちゃんのマネをしながら。

「仕事やプライベートのことで先輩によく相談に乗ってもらってたんですぅ。で、いつのまにか好きになっちゃって…気付いたら告白してましたぁっ!」

ねー、私と全く同じパターンじゃね?なんで結末こんな違う?

荒木さんは、もうやだー!似てるー!と言って腹を抱えて笑っていたが、時同じくして私は垣之内に殺意を抱き始めていた。いかん、垣之内さんは悪くない。

 

この際自分が石坂さんと付き合えなかったことはどうでもいい。そりゃそうだ。うん、だってみんな美人好きだし。私もイケメン好きだし。でもね、ひとつだけ危惧していることがある。石坂さんが後藤ちゃんに私との過去の一件を口外することである。

石坂さん「実はあいつヤベェ奴なんだよ。勘違いされてマジで大変だったわ。」

後藤ちゃん「えーっ!気持ち悪いっ!早速垣之内さんに報告しなきゃっ!」

石坂さん&後藤ちゃん「アハハハハ…」

…死にたい。本当勘弁してほしい。謝るから!肩もみするから!お菓子あげるから!お願い言わないでよー。超絶惨めじゃんよー。

 

もし口外していると仮定すると、ますます納得出来ない。というか、許すまじ愚行である。我慢ならない。だけど、付き合っているという事実に関しては、不思議と羨ましいとは思わなかった。私にとっては遠い昔の出来事である。あの時ことを一気に思い出し取り乱してしまったが、しばらくすると店内の陽気なメキシコ音楽を聴けるまでに気持ちを立て直しつつあった。今抱いているこの感情はなんだろうな。そうか、懐かしさだ。

 

私は垣之内さんと荒木さんに「あの2人なんだかお似合いですもんね」と、ニコニコしながら余裕の表情で言い放ち、口に残ったトルティーヤをごくっと飲み込んだ。